必要な生活費や目標利益のためにはいくら売上があればよい?「必要な売上の計算方法」
今回は、損益分岐点売上高の応用編です。
前回、損益分岐点売上高の計算方法について解説しました。
▶赤字を避けるにはいくら売上があればよい?「損益分岐点売上の計算方法」
これで最低ラインの売上高が計算できるようになりましたが、勘の良い方はこう気付かれたかもしれません。
利益の出る最低ラインって言うけど、
自分の給料等の生活費の分は考慮されてないよね?
そうなのです。前回の飲食店での設例は個人事業主を前提としているため、ご自身の給料や生活費は考慮されていませんでした。
(※法人の場合は、役員報酬という形で経費(固定費)の中に織り込み済みなので問題にはなりません。)
ただ、前回の損益分岐点売上高の考え方に一つ加えれば、それは簡単に計算できるようになります。
また、同じ考え方で、必要な目標利益を出すために必要な売上高も簡単に計算できるようになります。
今回はそんな必要な生活費や目標利益を出すために必要な売上高(目標利益達成売上高)の計算方法について見ていきましょう。
難しく考えすぎず、
設例で具体的にみていきましょう!
■前回までのまとめ
設例)飲食店(個人事業)
・売上1000万/年
・仕入350万/年 原価率35%
・経費500万/年 (内訳は家賃等の固定費が470万、減価償却費が30万)
・初期投資1000万
内訳:自己資金300万+銀行融資700万(7年返済)
STEP1:まずはすべての支出を洗い出し、それを固定費と変動費に分ける。
固定費と変動費の違い
固定費とは、売上高の増減に関係なくかかる支出(家賃、リース料など)
変動費とは、売上高の増減に比例してかかる支出(仕入、人件費、広告費など)
STEP2:下記の計算式に当てはめる
赤字にならないために必要な売上高の求め方(損益分岐点売上高) ※利益ベース
固定費÷(1-原価率)
資金ショートしないために必要な売上高の求め方(損益分岐点売上高) ※キャッシュフローベース)
(固定費+借入返済額-減価償却費)÷(1-原価率)
ここまでが前回までのおさらいです。
まずは、必要な生活費を出すために必要な売上高(目標利益達成売上高)の計算方法は、これに一つ加えるだけです。
■必要な生活費を出すために必要な売上高の計算方法
具体的には、下記の計算式に、ご自身に必要な給料などの生活費を加えれば良いだけになります。
なお、ご自身の給与などの生活費は、事業の利益には当然影響しませんので、上でなく下のキャッシュフローベースのみが対象になります。
STEP3:
赤字にならないために必要な売上高の求め方(損益分岐点売上高) ※利益ベース
固定費÷(1-原価率)
事業で資金ショートせず、かつ、必要な生活費を取るために必要な売上高の求め方 ※キャッシュフローベース)
(固定費+借入返済額-減価償却費+必要な生活費)÷(1-原価率)
仮に必要な生活費が年間240万(月20万×12月)だとすると、設例で言えば、
(固定費500万+借入返済額100万-減価償却費30万+必要な生活費240万)÷(1-原価率35%)≒1246万
これが事業で資金ショートせず、かつ、必要な生活費(月20万)を取るために必要な売上高になります。
実際の1000万の売上高と比べると、250万程足りないのがお分かりかと思います。
これがまさしく理想と現実のギャップで、それを埋めるための戦略が求められます。
■必要な利益(目標利益)を出すために必要な売上高の計算方法
これまでは利益や資金がギリギリ回るという最低ラインの売上高を解説してきましたが、実際には臨時支出や税金などの支出もあります。
つまり、最低ラインの売上高だけでは当然足りず、売上高の計算にその必要な利益(目標利益)を考慮しておきたいという意見が出ると思います。
こちらも、同じ考え方で簡単に計算できますので補足しておきます。
STEP3:
事業で必要な利益(目標利益)を出すために必要な売上高の求め方 ※利益ベース)
(固定費+必要な利益)÷(1-原価率)
事業で資金がショートせず、かつ、必要な利益を出すために必要な売上高の求め方 ※キャッシュフローベース)
(固定費+借入返済額-減価償却費+必要な利益)÷(1-原価率)
仮に必要な利益(目標利益)が年間60万(月5万×12月)だとすると、設例で言えば、
【上の利益ベース】
(固定費500万+必要な利益60万)÷(1-原価率35%)≒861万
【下のキャッシュフローベース】
(固定費500万+借入返済額100万-減価償却費30万+必要な利益60万)÷(1-原価率35%)≒969万
このように計算できます。
■総まとめ!必要な売上高の計算方法
これまでの考え方(STEP1~3)を全てまとめると、下記のような計算式に集約することができます。
この計算式に当てはめていけば、
自由自在に自分自身に必要な売上高を計算することができるようになりますよ!
【まとめ】
事業で必要な利益(目標利益)を出すために必要な売上高の求め方 ※利益ベース)
(固定費+必要な利益)÷(1-原価率)
事業で資金がショートせず、かつ、必要な生活費や利益を出すために必要な売上高の求め方 ※キャッシュフローベース)
(固定費+借入返済額-減価償却費+必要な生活費+必要な利益)÷(1-原価率)
【上の利益ベースの計算例】 ※生活費や借入返済の考慮なし
❶利益ゼロで良い場合に必要な売上高:
(固定費500万+必要な利益0万)÷(1-原価率35%)≒769万/年
❷利益30万欲しい場合に必要な売上高:
(固定費500万+必要な利益30万)÷(1-原価率35%)≒815万/年
❸利益150万欲しい場合に必要な売上高:
(固定費500万+必要な利益150万)÷(1-原価率35%)≒1000万/年
【下のキャッシュフローベースの計算例】 ※生活費や借入返済の考慮あり
❹事業は利益ゼロで資金ショートしなければ良く、生活費も要らない場合に必要な売上高:
(固定費500万+借入返済額100万-減価償却費30万+必要な生活費0円+必要な利益0万)÷(1-原価率35%)≒877万/年
❺事業は利益ゼロで資金ショートしなければ良いが、年間120万(月10万)の生活費は欲しい場合に必要な売上高:
(固定費500万+借入返済額100万-減価償却費30万+必要な生活費120万円+必要な利益0万)÷(1-原価率35%)≒1061万/年
❻事業は利益120万(月10万)で資金ショートせず、かつ、年間120万(月10万)の生活費も欲しい場合に必要な売上高:
(固定費500万+借入返済額100万-減価償却費30万+必要な生活費120万円+必要な利益120万)÷(1-原価率35%)≒1246万/年
このように、計算式に当てはめるだけで、ご自身に必要な売上高が簡単に計算できます。
そして計算ができたら、年1246万÷12月→月104万÷25日→日4万(25日営業の場合)÷6,000円→日7人(客単価6,000円の場合)というように分解していけば、より具体的な必要売上高が見えてきます。
また、この計算式から、固定費や生活費、そして原価率が減れば必要な売上高は低くて済むことがわかりますので、支出の見直しを図ったり、客単価を見直したりと、様々な戦略を具体的に考えることができます。
少し大げさに言えば、この計算式は、
あなたが事業をするなら一生使える計算式だということですね。
是非ともこの機会に理解してもらえると、事業運営で役に立つと思います。
参考にして頂ければ幸いです。
この記事を書いた人
あさがお税理士事務所 代表税理士 伊藤貴文
税理士 / 栃木出身 / 埼玉在住 / 東京勤務 / 3児の父