退職後の税金・社会保険の手続き一覧
退職後と開業時の手続きは、複雑です。
色々なサイトを見ても、色々な制度が混ざっていて分かりづらい場合が多いもの。
今回は、退職後の手続きを3つに分けて一覧にしました。
これを見れば、自分がどのような手続きが必要が明らかになるはずです!
■退職後の手続き
退職後の手続きは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、社会保険です。
具体的には、❶雇用保険、❷健康保険、❸年金があります。
2つ目は、税金です。
具体的には、❹所得税、❺住民税があります。
3つ目は、その他として簡単に補足します。
以下で詳しく説明します。
■社会保険について
□❶雇用保険
前職を退職して開業する場合、基本的に雇用保険には加入できません(個人事業主になる場合も、法人の代表取締役になる場合も同様)。
雇用保険は、雇用されている従業員のための制度だからです。
雇用保険の手続きは、それを抜ける手続きは前職の会社がやってくれるため、創業者自身でやることは基本的にはありません。
失業手当を受け取らないのであれば、やることは基本的に前職の会社から書類を受け取るだけ。
(※失業手当とは、雇用保険に加入していた従業員が、退職後に求職している時に受けられる給付です。個人事業主等として開業した場合には求職していないこととなるため、受給資格がなくなります。)
つまり、創業までの期間が空いて失業手当をもらう場合だけ気をつければ良いでしょう。
退職後すぐ開業する場合は、
退職者は前職から書類を受け取ればおしまいです!
それ程難しくないですよ。
それでは手続きを見て行きましょう!
【雇用保険の手続き】
パターンは2つです。
パターン①:前職で雇用保険に加入→開業後は雇用保険未加入
例:正社員・アルバイト(雇用保険加入)→個人事業主・法人
■前職会社の手続き:
1. 雇用保険資格喪失届
退職日の翌日から10日以内に管轄のハローワークへ/添付資料:賃金台帳、労働者名簿等
2. 離職票(※退職者が失業手当申請を希望する場合、離職日で59歳を越えている場合)
退職日の翌日から10日以内に管轄のハローワークへ/添付資料:賃金台帳、労働者名簿等(その後ハローワークから返送され、離職票2を本人に転送)
■退職者の手続き:
1. ハローワークから返送された後、雇用保険資格喪失確認通知書を前職会社から受け取る(※失業手当を申請しない場合)
2. 離職票の記入部分を記入し、ハローワークから返送されたものを前職会社から受け取る(※失業手当を申請する場合)/会社提出から2-3週間後目安
パターン②:前職で雇用保険に未加入→開業後は雇用保険未加入
例:アルバイト(雇用保険未加入)→個人事業主・法人
■前職会社の手続き:
特に手続きなし
■退職者の手続き:
特に手続きなし
□❷健康保険
社会保険の中でこの健康保険が一番難しいです。
健康保険には大きく分けて3つの種類(①協会けんぽ、②組合健康保険、③国民健康保険)があります。
まずは自分が前職でどの健康保険制度に加入しているのかを正確に理解する必要があります。
見分け方は、ご自身の保険証を見れば分かります。
交付者名の部分に、”全国健康保険協会”(通称、協会けんぽ)とあるのであれば、前職の会社の健康保険に入っています。
また、”〇〇国民健康保険組合”とある場合も、こちらも前職の会社の健康保険に入っている可能性が高いです。
一方、”市区町村の名前”があるのであれば、前職の会社の健康保険には未加入で、自身で国民健康保険料を払っているはずです。
前職でご自身が加入している健康保険がわかった段階で、
それでは具体的に手続きを見て行きましょう!
【健康保険の手続き】
パターンは4つです。
パターン①:前職で会社の健康保険に加入→開業後は個人事業主(国民健康保険)
例:正社員(健康保険)→個人事業主(国民健康保険)
この場合、以下の3つの選択肢があります。
(1)会社の健康保険を資格喪失+国民健康保険に加入
(2)会社の健康保険を任意継続(最大2年) ※全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合。任意継続は退職日の翌日から20日以内
(3)配偶者の扶養に入る ※年収要件に注意
※複業をしている方で、個人事業以外の会社で健康保険に加入している場合は、特に手続き不要(その会社からの天引だけで完結)
個人事業主の場合、(1)の国民健康保険に加入が王道のパターンになりますが、状況次第では(2)(3)も選ぶことができます。
(2)の任意継続とは、期間限定で前職の健康保険に加入し続ける延長制度です。前職の会社が全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険に加入していた場合に認められています(組合健康保険に加入の場合は、念の為前職に確認ください。)。
任意継続した方が有利かどうかは、前職での収入状況や扶養の有無によって答えが異なるため、具体的な試算が必要です。
また、退職日の翌日から20日以内に手続きしないといけないため、急がないと任意継続出来なかったということもあり得ます。管轄の市区町村に聞いてみた方が良いでしょう。
※個人事業主でも、5人以上の従業員を抱えて開業する等の例外的な場合は、社会保険への加入義務が発生し、パターン③になりますのでご注意ください。
■前職会社の手続き:
1. 健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届
退職日から5日以内に所轄の年金事務所へ/添付資料:保険証
※なお、任意ですが、退職者が任意継続を希望する場合、
任意継続被保険者資格取得申出書の事業主記入部分に記入して渡してあげると手続きがスムーズです。
2. 健康保険資格喪失証明書(※退職者が必要な場合のみ)
自由書式(各市区町村のHPに雛形がある場合があります。)
■退職者の手続き:
(1)会社の健康保険を資格喪失+国民健康保険に加入の場合
1. 国民健康保険資格取得届
退職日の翌日から14日以内に所轄の市区町村へ/添付資料:本人確認書類、マイナンバーカード、健康保険資格喪失証明書等
※各市区町村によって必要書類は異なる可能性があるため、直接確認するのが確実です。
(2)会社の健康保険を任意継続する場合
1. 任意継続被保険者資格取得申出書
退職日の翌日から20日以内に全国健康保険協会へ/添付書類:退職日が確認できる書類
※20日以内は、必着なので注意(ただし、提出期限が土日祝日の場合、翌営業日。)
また、退職日前の提出は×。その他詳しい要件は、リンクを参照(202007けんぽ協会_手引き_A4HP支部用.indd (kyoukaikenpo.or.jp))
(3)配偶者の扶養に入る場合
配偶者の健康保険に必要書類を確認し、手続きをしてください。
※ご自身で健康保険を支払う必要はなくなりますが、130万円以内等の年収要件などがあるため注意しましょう。
パターン②:前職では会社の健康保険に未加入(国民健康保険)→開業後は個人事業主(国民健康保険)
例:アルバイト等(国民健康保険)→個人事業主(国民健康保険)
この場合、国民健康保険の継続になるため、基本的には手続き不要です。
■前職会社の手続き:
特に手続きなし
■退職者の手続き:
特に手続きなし
※市区町村の管轄が変わる場合を除く
パターン③:前職で会社の健康保険に加入→開業後は法人設立・代表取締役(厚生年金)
例:正社員(健康保険加入)→法人設立・代表取締役(健康保険)
法人設立した場合、役員報酬を取らない場合を除き、基本的に社会保険(健康保険・厚生年金)は強制加入となります。
なお、前職退職から法人設立まで期間が空く場合には、その期間についてはパターン①と同様になりますのでご注意ください。
例えば、3月に前職を退職し、4月は法人設立準備、5月に法人設立して代表取締役就任となった場合、
・3月:前職(会社の健康保険)
・4月:空白期間(パターン①により、国民健康保険 or 任意継続 or 配偶者扶養)
・5月:法人設立(会社の健康保険に新規加入)
というように複数の健康保険が入り乱れることになり、とても複雑になります。
以下は、前職退職の翌日に代表取締役の社会保険の資格取得をした場合(=空白期間なし)を想定してまとめます。
■前職会社の手続き:
1. 健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届
退職日から5日以内に所轄の年金事務所へ/添付資料:保険証
■退職者(法人設立者)の手続き:
1. 健康保険・厚生年金保険新規適用届
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ/添付資料:登記簿謄本(原本)、法人番号指定通知書等(コピー)
※実際には、法人設立の登記が完了してから提出になります。
2. 健康保険・厚生年金被保険者資格取得書
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ
※すぐに保険証を使いたい場合には、健康保険被保険者資格証明書交付申請書」を申請しましょう。これは保険証代わりに使えるもの
3. 健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届(※子供などの被扶養者がいる場合)
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ/添付資料:被扶養者の戸籍謄本or住民税(コピー)、収入証明書類
パターン④:前職では会社の健康保険に未加入(国民健康保険)→開業後は法人設立・代表取締役(厚生年金)
例:アルバイト等(国民健康保険)→法人設立・代表取締役(健康保険)
こちらはパターン③と比べたらシンプルです。
法人設立して代表取締役としての社会保険資格取得をするまでの期間は国民健康保険を支払い、資格取得後は自身の会社の健康保険に加入するという流れになります。
■前職会社の手続き:
特に手続きなし
■退職者(法人設立者)の手続き:
1. 新規適用届
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ/添付資料:登記簿謄本(原本)、法人番号指定通知書等(コピー)
※実際には、法人設立の登記が完了してから提出になります。
2. 健康保険・厚生年金被保険者資格取得書
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ
※すぐに保険証を使いたい場合には、健康保険被保険者資格証明書交付申請書」を申請しましょう。これは保険証代わりに使えるもの
3. 健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届(※子供などの被扶養者がいる場合)
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ/添付資料:被扶養者の戸籍謄本or住民税(コピー)、収入証明書類
□❸年金
年金の話はシンプルで、提出する書類自体は、先程紹介した健康保険とセットになっている場合がほとんどです。
それでは具体的に手続きを見て行きましょう!
【年金の手続き】
パターンは4つです。
パターン①:前職で会社の厚生年金に加入→開業後は個人事業主
例:正社員(厚生年金加入)→個人事業主
5人以上の従業員を抱えて開業する等の例外的な場合を除いて、この場合は厚生年金から国民年金への切り替えとなります。
■前職会社の手続き:
1. 健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届(先程の健康保険と同じ書類)
退職日から5日以内に所轄の年金事務所へ/添付資料:保険証
2. 年金手帳を本人に返却
3. 厚生年金資格喪失証明書(※退職者が必要な場合のみ)
自由書式(各市区町村のHPに雛形がある場合があります。)
■退職者の手続き:
1. 国民年金保険資格取得届
退職日の翌日から14日以内に所轄の市区町村へ/添付資料:年金手帳or基礎年金番号通知書、退職日がわかる書類、本人確認書類、マイナンバーカード等
※各市区町村によって必要書類は異なる可能性があるため、直接確認するのが確実です。
※配偶者の3号被保険者になる場合を除きます。この場合、ご自身で国民年金を支払う必要はなくなりますが、130万円以内等の年収要件などがあるため注意しましょう。
パターン②:前職では会社の厚生年金に未加入(国民年金)→開業後は個人事業主
例:アルバイト等(国民健康保険)→個人事業主
5人以上の従業員を抱えて開業する場合等の例外的な場合を除いて、国民年金の継続となります。
■前職会社の手続き:
特に手続きなし
■退職者の手続き:
特に手続きなし
※市区町村の管轄が変わる場合を除く
パターン③:前職で会社の厚生年金に加入→開業後は法人設立(代表取締役)
例:正社員(厚生年金加入)→法人設立・代表取締役(厚生年金)
法人設立した場合、役員報酬を取らない場合を除き、基本的に社会保険(健康保険・厚生年金)は強制加入となります。
なお、前職退職から法人設立まで期間が空く場合には、その期間についてはパターン①と同様になりますのでご注意ください。
例えば、3月に前職を退職し、4月は法人設立準備、5月に法人設立して代表取締役就任となった場合、
・3月:前職(会社の厚生年金)
・4月:空白期間(パターン①により、基本的に国民年金)
・5月:法人設立(会社の厚生年金に新規加入)
というように複数の健康保険が入り乱れることになります。
以下は、前職退職の翌日に代表取締役の社会保険の資格取得をした場合(=空白期間なし)を想定してまとめます。
■前職会社の手続き:
1. 健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届(先程の健康保険と同じ書類)
退職日から5日以内に所轄の年金事務所へ/添付資料:保険証
2. 年金手帳を本人に返却
■退職者(法人設立者)の手続き:
1. 健康保険・厚生年金保険新規適用届(先程の健康保険と同じ書類)
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ/添付資料:登記簿謄本(原本)、法人番号指定通知書等(コピー)
※実際には、法人設立の登記が完了してから提出になります。
2. 健康保険・厚生年金被保険者資格取得書(先程の健康保険と同じ書類)
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ
※すぐに保険証を使いたい場合には、健康保険被保険者資格証明書交付申請書」を申請しましょう。これは保険証代わりに使えるもの
3. 健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届(※子供などの3号被保険者がいる場合)(先程の健康保険と同じ書類)
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ/添付資料:被扶養者の戸籍謄本or住民税(コピー)、収入証明書類
パターン④:前職では会社の厚生年金に未加入(国民年金)→開業後は法人設立(代表取締役)
例:アルバイト等(国民年金)→法人設立・代表取締役(厚生年金)
こちらはパターン③と比べたらシンプルです。
法人設立して代表取締役としての社会保険資格取得をするまでの期間は国民健康保険を支払い、資格取得後は自身の会社の健康保険に加入するという流れになります。
■前職会社の手続き:
特に手続きなし
■退職者(法人設立者)の手続き:
1. 新規適用届
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ/添付資料:登記簿謄本(原本)、法人番号指定通知書等(コピー)
※実際には、法人設立の登記が完了してから提出になります。
2. 健康保険・厚生年金被保険者資格取得書
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ
※すぐに保険証を使いたい場合には、健康保険被保険者資格証明書交付申請書」を申請しましょう。これは保険証代わりに使えるもの
3. 健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届(※子供などの被扶養者がいる場合)
事実発生から5日以内に事業所所轄の年金事務所へ/添付資料:被扶養者の戸籍謄本or住民税(コピー)、収入証明書類
社会保険の手続きは、以上になります!
見慣れない書類の名前が出てきて、少し戸惑ったかもしれません。
ただ、基本的には市区町村や年金事務所などに確認してみれば、丁寧に教えてもらえます。
まずは「自分の場合は、こんな書類が必要なんだな」という認識でOKで、
後で漏れがないかのチェックリストとして使ってもらえれば十分です!
■税金について
□❹所得税
■前職会社の手続き:
特に手続きなし
※退職金があり、かつ、源泉徴収なしの場合のみ、退職所得の受給に関する申告を退職者から受け取る。
■退職者の手続き:
- 確定申告と所得税の納付
退職の翌年翌年 2月16日~3月15日の間に事業所所轄の税務署へ
※確定申告の義務がある場合、もしくは還付となる場合(年の途中で退職し、前職で年末調整をしていない場合は、申告すると還付となる場合があります。)
2. 退職所得の受給に関する申告
※退職金があり、かつ、源泉徴収なしの場合のみ
□❺住民税
■前職会社の手続き:
1. 給与所得異動届出書の提出と納付(退職者に対して特別徴収をしている場合)
退職月の翌月10日までに管轄の市区町村へ
※退職日に基づいて、以下の区分で徴収
・6/1~12/31に退職の場合:最後の給与又は退職金から一括徴収or普通徴収に切替
・1/1~4/30に退職の場合:最後の給与又は退職金から一括徴収
・5/1~5/31に退職の場合:通常通り5月分を徴収
※退職者に対して特別徴収をしていない場合は、特に手続きなし
■退職者の手続き:
- 住民税の納付
会社の給与から住民税の天引きされている場合(=特別徴収)には、自身で払うための切り替えが必要です。
手続き自体は前職の会社によってなされます。
個人事業主になる場合には、ご自身で年4回払う形になり(=普通徴収)、納付書が管轄の市区町村から届きます。
法人を設立する場合は、何もしないと上記の普通徴収のままになります。特別徴収切替届出書を提出することで、自分の役員報酬からの天引きに切り替えることができます。
■その他について
□その他
その他、退職後にしておくべきことと言えば、例えば以下のようなことがあります。
- 加入している保険の変更申請(勤務先などを登録しているはずです。生命保険や自動車保険など。)
- 学校や保育園等への変更申請(こちらも勤務先を登録しているはずです。家族を含めて確認が必要です。)
いかがだったでしょうか?
今回は、退職前後の手続きについて詳しく解説させて頂きました。
ご自身が開業する際には、「退職者の手続き」の部分を辞書的に使ってもらえたらと思います。
ちなみに、「前職会社の手続き」も一緒に載せているのは、その流れを踏まえると退職者の手続きが理解しやすいからです。
今後社員を雇ってその方が退社する際には、今度はご自身が「前職会社の手続き」を行う立場になります。
なかなか退職の社会保険と税金の全てを、会社と退職者両方の立場で書いた記事がなかったため、今回自分で作ってみました。
参考になれば嬉しいです。
この記事を書いた人
あさがお税理士事務所 代表税理士 伊藤貴文
税理士 / 栃木出身 / 埼玉在住 / 東京勤務 / 3児の父