自分は扶養の範囲内?「税金と社会保険における扶養の違い」【配偶者版】
今回は、扶養の考え方について少し解説したいと思います。
扶養って色んな場面で聞くけど、
正直よくわかっていません。
扶養は、収入が一定額より低い場合に、色んな優遇がある制度だとは多くの人が知っています。
ただ、この扶養については、実は勘違いされている方が多い論点だったりします。
例えば、よく聞く103万の壁というのは、給与の収入の場合で、フリーランスの方には当てはまりません。
他にも、税金と社会保険で扶養の考え方が異なっているが故に、
今年は少し収入が多くて、片方だけ扶養から外れてしまった…という方もいらっしゃいます。
このような方にとっては、この記事を読んで頂くことで、
自分のケースが扶養内に当てはまっているかを整理できます。
この記事の対象者
- 配偶者の扶養内で起業したい/起業している方
- 事業者の方で、配偶者を扶養にしたい方
- (注)今回は「配偶者」を前提にまとめていますが、扶養は子や親なども一定の場合に対象になります。
なお、「扶養者」「被扶養者」という言葉を使ってしまうと理解が難しくなるので、
どちらかというと多い「夫が妻を扶養しているケース(=夫が扶養者、妻が被扶養者)」を前提に書いてみます。
あくまで説明の便宜上なので、ご理解くださいね。
では、具体的にみていきましょう!
目次
■扶養が問題になる3つの場面
まずは、扶養がどのような場面で問題となるのかについて整理します。
”扶養”という言葉が問題になるのは、大きく3つの場面です。
図のように、①税金、②社会保険、③職場という3つの場面で、扶養は登場します。
ポイントは、3つ全てで微妙に考え方が違うということです。
3つの扶養が登場する場面と効果
①税金の扶養とは、扶養者(夫)側と被扶養者(妻)側で税金が減る場面で登場します。
→一つ目は、良く知られている”103万の壁”。これは被扶養者(妻)側で所得税がかからないラインになります。
二つ目は、”150万の壁”(2018年改正で103万⇒150万)。これは扶養者(夫)側で扶養控除が適用できるラインになります。
給与の年収が103万以下であれば、被扶養者(妻)側で所得税がかかりません。
給与の年収が150万以下であれば、扶養者(夫)側で配偶者控除が適用できて税金が減ります。
これらの壁は、給与のみの方が前提なので、フリーランスには当てはまりません。
あとで詳しく説明しますが、年間の計算なので年末調整や確定申告などの場面で登場します。
②社会保険の扶養とは、被扶養者(妻)が、扶養者(夫)の職場の保険証を取得できて、被扶養者(妻)自身の社会保険の負担がなくなるかどうかの場面で登場します。
→税金より少し金額が上がって”130万の壁”と言われたりします。
年収が130万未満であれば、被扶養者(妻)は、扶養者(夫)の職場の保険証が取得でき、被扶養者(妻)自身の健康保険料はかかりません。(※なお、厚生年金でも「3号被保険者」という「年金の扶養」のような制度があります。同じく年収130未満の配偶者の保険料を免除(=自分で国民年金保険料を払わなくてOK)し、将来の年金額も国民年金と同等の額が保障されます。)
③職場での扶養とは、扶養者(夫)での職場で扶養手当が出るかどうかの場面で登場します。
→各会社ごとに制度として出る/出ないがあり、出る場合でも年収103万など会社ごとに基準が異なります。
今回はこれらのうち、
最も一般的な黄色部分の税金(所得税)と社会保険(健康保険 )の部分に焦点を当てて比べてみたいと思います。
なお、健康保険と言っても色々と種類があるので、こちらも最も一般的な”協会けんぽ”という保険組合を前提にします。
扶養者(夫)が大企業や特定業種など独自の保険組合に加入している場合には、
組合ごとに基準が異なる場合があるので個別にご確認ください。
保険証を見れば、
ご自身がどの保険組合に加入しているかがわかります!
「全国健康保険協会」なら、協会けんぽです。
■税金と社会保険の扶養の違い
税金(所得税)と社会保険(協会けんぽ・健康保険)の扶養の違いについて、下記の図にまとめました。
よくよく見てみると、ちょっとどころか、実は結構違います。
❶~❸の全てに当てはまらないと、それぞれの扶養には当てはまりません。
一つ一つクリアしているか確認して頂けたらと思います。
では、一つずつ見ていきましょう!
❶被扶養者(妻)の稼ぎ【判定方法】についての比較
まずは一つ目、被扶養者(妻)側での稼ぎの判定方法について、税金と社会保険を比較してみます。
□税金(所得税) ⇒ 年の「合計所得金額」が48万円以下
いきなり「合計所得金額」という難しい言葉が出てきました。
これは、収入の種類によって、計算の仕方が異なります。
例えば、被扶養者(妻)が給与収入のみの場合は、年間給与収入が103万以下であれば、合計所得金額は48万以下で扶養内になります。
一方、被扶養者(妻)が)フリーランス(個人事業主)のような事業収入の場合は、「売上-経費-青色申告特別控除額」が48万以下であれば、合計所得金額は48万以下で扶養内になります。
計算例(フリーランスの場合の所得税の扶養の判定)
売上150万、経費が55万、青色申告特別控除額65万 ⇒ 150万-55万-65万=30万 ∴48万以下のため扶養内
売上100万、経費が10万、青色申告特別控除額10万 ⇒ 100万-10万-10万=80万 ∴48万超のため扶養の対象外
妻(被扶養者)の確定申告書を見て、この赤枠の⑫部分(各所得金額の合計)が48万以下であれば、
夫(扶養者)側で扶養控除が適用できることになります。
そのため、一つではなく複数の収入や所得があったり、その年だけの臨時収入がある場合には、
合算すると扶養から外れてしまうこともありますので注意が必要です。
まとめると、
・給与だけの方 ⇒ 収入が103万以下
・フリーランスの方 ⇒ 収入(売上)ではなく、色々と引いた残りが48万以下
かどうかで扶養内か確認することができます。
□社会保険(協会けんぽ・健康保険) ⇒ 月の「収入金額」が10.8万円未満
次は、社会保険の扶養です。
社会保険の扶養内になろうと思うと、月の収入を約10.8万未満に抑える必要があります。
知識がある方は、月ではなく年間の収入(130万)で判定するのでは?
と疑問を持たれるかもしれません。
考え方としてはそれで正解ですが、実際には月々に分けて判定していきます。
年間収入130万を月にならすと、130万÷12か月≒月10.8万。
つまり、「月に約10.8万円未満の収入が続くのであれば、将来1年間の見込収入が130万円未満」ということで、扶養内になります。
(※60歳以上や障害者の場合は、180万÷12か月=月15万未満が基準になります。)
計算例(協会けんぽの場合の社会保険の扶養の判定)
①給与の方
1月~12月=月10万の給与 ∴10.8万未満のため扶養内
1月~10月=月10万の給与、11月から月11万の給与 ∴10.8万以上のため、11月以降は扶養の対象外
②フリーランスなどの個人事業主の方
1月~12月=毎月10万以下の売上 ∴10.8万未満のため扶養内
1月~10月=毎月10万以下の売上、11月から毎月11万以上の売上 ∴10.8万以上のため、11月以降は扶養の対象外
特にフリーランスの方は、その月によって売上が10.8万を超えたり下がったりすることがあると思います。
ひと月だけでも10.8万円を超えたら、すぐさま扶養から外れるということではないようです。
厚生労働省の事務連絡資料には、下記のような記載があります。
今後1年間の収入を見込む際には、例えば、認定時(前回の確認時)には想定していなかった事情により、一時的に収入が増加し、直近3ヶ月の収入を年収に換算すると130万円以上となる場合であっても、直ちに被扶養者認定を取消すのではなく、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等と照らして、総合的に将来収入の見込みを判断すること。
被扶養者の収入の確認における留意点について(◆令和02年04月10日事務連絡) (mhlw.go.jp)
よって、例えば、10.8万円を数か月超える状況が続き、今後1年間の見込を合計するとそれが130万を超えるなどの場合は、扶養から外れることに注意が必要ということになります。
また、こちらはあくまで収入ベースで、先程税金のフリーランスの場合でみたような所得ではないのでご注意ください。
なお、この収入の考え方は、保険組合によっては微妙に解釈が異なる場合があります(いくつかの経費が引けたりする場合があります)ので、
金額が微妙な方は、管轄の保険組合に確認されると良いと思います。
❷扶養者(夫)の稼ぎ【判定方法】についての比較
次に、扶養者(夫)側での稼ぎの判定方法について、税金と社会保険を比較してみます。
□税金(所得税) ⇒ 年の「合計所得金額」が1000万円以下
また、「合計所得金額」という言葉が出てきました。
繰り返しですが、収入の種類によって、計算の仕方が異なります。
例えば、扶養者(夫)が給与収入のみの場合は、下記の通りです(※()は70歳以上の場合)。
・年間給与収入が1120万以下であれば、合計所得金額は900万以下となり、扶養者(夫)側で38万(48万)の配偶者控除が適用できます。
・年間給与収入が1170万以下であれば、合計所得金額は950万以下となり、扶養者(夫)側で26万(32万)の配偶者控除が適用できます。
・年間給与収入が1220万以下であれば、合計所得金額は1000万以下となり、扶養者(夫)側で13万(16万)の配偶者控除が適用できます。
一方、扶養者(夫)がフリーランス(個人事業主)のような事業収入の場合は、下記の通りです(※()は70歳以上の場合)。
・合計所得金額(≒売上-経費-青色申告特別控除額)が900万以下であれば、扶養者(夫)側で38万(48万)の配偶者控除が適用できます。
・合計所得金額(≒売上-経費-青色申告特別控除額)が950万以下であれば、扶養者(夫)側で26万(32万)の配偶者控除が適用できます。
・合計所得金額(≒売上-経費-青色申告特別控除額)が1000万以下であれば、扶養者(夫)側で13万(16万)の配偶者控除が適用できます。
なお、扶養者(夫)側の収入が高く、配偶者控除が適用外になったとしても、一定の年収までは配偶者特別控除という制度があります。
詳しくは、下記をご覧ください。
▶No.1195 配偶者特別控除|国税庁 (nta.go.jp)
□社会保険(協会けんぽ・健康保険) ⇒ 被扶養者(妻)の収入の2倍以上
次は、社会保険の場合です。
同居の場合、扶養者(夫)の収入が、被扶養者(妻)の収入の2倍以上であることが求められます。
ただし、被扶養者(夫)の収入が被扶養者(妻)の収入の2倍未満であったとしても、世帯の生計維持の中心的役割を果たしている場合には被扶養者となることもあるようです。この点が微妙な場合にも、確認された方が良いと思います。
❸夫婦の稼ぎ【判定時期】についての比較
最後に、夫婦での稼ぎの判定時期について、税金と社会保険を比較してみます。
□税金(所得税) ⇒ 年末時点(過去ベース)
税金の扶養の判定時期は、年末時点です。
その年の年末時点で、その年1年間の所得金額が48万以下かどうかで扶養を判定します(例外的に、源泉所得税については、月々時点でも見込みで扶養判定を行い、年末に確定します)。
つまり、過去の収入(所得)で判定していると言えます。
□社会保険(協会けんぽ・健康保険) ⇒ 月々時点(将来ベース)
これに対して、社会保険の扶養は、先ほど説明した通り月々時点に割戻し、将来1年間の見込で判定していきます。
つまり、先ほどの過去に対して、将来の収入で判定していると言えます。
□おまけ
こちらは、参考程度の比較になります。
該当する方のみ参考になさってください。
■まとめ
以上になります!
扶養は、言葉がややこしかったり、
税金と社会保険で考え方が違うこともあり、なかなか分かりづらい論点です。
今回載せた3つの違いについて全てカバーしつつ、
税金と社会保険についてうまくまとめた記事がなかったので今回作ってみました。
参考にして頂ければ幸いです。
この記事を書いた人
あさがお税理士事務所 代表税理士 伊藤貴文
税理士 / 栃木出身 / 埼玉在住 / 東京勤務 / 3児の父