宛名が空欄の領収書、自分で書き込んで良いの?

■はじめに

宛名が空欄の領収書をもらったんだけど、
何か問題あるの?

宛名が空欄だったから自分で書きこんでみたんだけど、
何か問題あるの?

これらの質問も、創業者からよく受けます。

宛名がなくても領収書は認められるのか。
またどのようなリスクがあり、どのような対策ができるのか。

今回は、その問題について考えていきましょう。

■宛名が空欄のリスク

宛名が空欄の場合、実務的には2つのリスクがあるように思います。

①消費税の納税が増える可能性

「領収書の考え方」の記事でお話したように、領収書には、記載されるべき事項が決められています。

①書類作成者の氏名又は名称 ②取引年月日 ③取引内容(軽減税率の対象品目である旨) ④税率ごとに区分して合計した税込対価の額 ⑤書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

国税庁HP No.6625 請求書等の記載事項や発行のしかた|国税庁 (nta.go.jp)


注目すべきは、マーカーを引いた上記⑤の部分です。

領収書宛名のない領収書は、原則として消費税の計算上認められないということです(専門用語では、仕入税額控除不可と言います。)。
「上様」の表記も、正式名称ではない点で同様の扱いになります。

あくまで「原則」なので、当然「例外」があります。
小売業、飲食店業、タクシー業者などの不特定多数を相手にするような業者から受けるような場合に省略が可能(=空欄でOK)です。
また、金額が税込3万円未満であれば、帳簿に記載さえすればOK
という例外もあります。

これらの原則・例外の話はあくまで「消費税の計算上」の話なので、法人税や所得税では別問題です(※下の②で説明します)
また、消費税を支払っていない免税事業者や、消費税を支払っているけれど簡易課税を選択している事業者には基本的には無関係の話となります。

②税務調査で疑いを持たれる可能性

先ほど「法人税や所得税では別問題」と書きましたが、
正確に言うと法人税や所得税の世界では、領収書の記載事項について明示がないのです。
つまり、宛名がなくても認められるかもしれないし、認められないかもしれない。
ただし、宛名がある方が支払った事実としての証拠能力が高いのは言うまでもありません。

勘違いされる方が多いので念を押しますが、
先ほどの消費税のように「宛名がない=認めないではなく、
法人税や所得税法上、「宛名がない=本当にあなたに支払ったのか疑念を税務署にもたれる」ということです。

当然金額や頻度などの程度問題な部分もありますが、
宛名がないことをもって取引先に対して税務調査で確認に行く(反面調査と言います)可能性はあるということです。

■自分で名前を書き込むことの可否

そのような空欄のリスクを回避しようと、自分で自社の名前を記入する場合が想定されます。

結論からいうとNGです。やらない方が良いと思います。
なぜなら領収書はあくまで支払側受取った事実を証明するものだからです。

万が一自分が支払っていない領収書に自分の名前を書くというような真実と異なるような宛名を記入したことが発覚した場合には、私文書偽造等罪(刑法159条1項)に問われ、3月以上5年以下の懲役を課される可能性があります。
本当に自分が支払っている場合にはそこまで問われることはないとは思いますが、メリットがない以上はわざわざ記入する必要もないように思います。

記録のためどうしても追記しておきたいときには、
赤書きや、鉛筆書き裏書き、あるいは「追記:××」など、
明らかに自分で書いた部分だとわかるような書き方が必要だと考えます。

■対応策

では、どう対応したら良いのか。いくつか考えてみました。

①宛名を相手に書いてもらうことを習慣付ける

地味ですが、当然ながらベストはこれです。
名刺を差し出すなど、こちらも書く方もお互いストレスなく宛名を書く準備をして負担を減らすことはできると思います。

②多少の強弱を付ける

全ての領収書に宛名があるのがベストですが、物理的には難しい部分もあるでしょう。
金額が大きいもの・頻度が高いものは、必ず宛名を書いてもらうという強弱の付けるという方法も考えられます。

具体的な金額は、規模によって基準値が異なるでしょうが、
例えば5,000円1万円以上と決めたり、消費税法上帳簿記載のみで済む税込3万円以上は必ずもらうと決める方法も考えられます。

③社判とスタンプ台を持ち歩き、定員さんに印鑑を押してもらう

このような方法もあるようです。空欄よりは良い方法かもしれません。

ただ、それだけだと自分で押した場合との違いがわからないという問題点があります。
私見ですが、真横に社員の押印をもらう等、一貫した追加対応策があれば有効かもしれません

この記事を書いた人

あさがお税理士事務所 代表税理士 伊藤貴文

税理士 / 栃木出身 / 埼玉在住 / 東京勤務 / 3児の父

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